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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
弥太郎・日用訓
弥太郎・日用訓
鬼小島弥太郎も、本姓は小島、名は弥太郎一忠に過ぎないので、鬼だけは、あとから名いたものである。
越後国上郷の生れで、牛飼いの子だという。彼の十五、六歳のとき、狩猟か何かの出先から謙信が、その異形を見て連れかえり、宇佐美駿河守の組へ、
「養ってみろ」
と、預けておいたものだった。
「弥太は、鬼の子か」
と、そのころからよく大人達からからかわれたものである。強力だったし、赤毛だし、疱瘡のあとが面を埋めていたためでもあろうが、越後国上郷は、むかし大江山の酒顛童子が海から上陸って来たところだという伝説があるので――それと彼とがむすびつけられたものらしい。
しかし、一人前になって来ると、かえって、その名がおかしくなくなって来た。おそろしい大酒家になった。雪国なので総じて、越後衆はよく飲むが、彼のは底ぬけといってよい。一夜六升、一日一斗などという記録をもっていた。しかも自慢にしている風さえある。
武を磨き、男を磨く、越後家中のあいだには、飲食についても、鉄則があった。心得として藩令に出ている箇条のひとつに。
一 大酒のむべからず、たとへ酔はずとも傍目より見て危ふし。