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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
重き陣幕
兵と同じ粗末な糧食を摂って、一椀の湯を篝のそばですすり終ると、中条越前守へ、
「物見の報告は、そちが聞いておけ。兵はなるべく十分に眠らせるように、また半夜代りの者共も、夜は寒い、明々と篝を絶やさず、身を温めて居眠るがいい」
と、いいつけ、自分もすぐ、夜霧に絞るほど濡れている陣の幕を壁と、楯を床として、ごろりと身を横にしてしまった。こういう簡素な生活には馴れきっている寝すがたである。そして草に枕し、露にまどろむ間に、彼は時折、詩を作り、歌などもくちずさんだ。
能登遠征のときの
霜満軍営秋気清
数行過雁月三更
は、ずっと後年の作であるが、青年ごろの作かと思われるものに、次のような一首がある。
ものゝふの
鎧の袖にかたしきし
枕にちかき
はつ雁の声
重き陣幕
小荷駄奉行の直江大和守は、ふもとの土口に陣していたが、やはり、油断ならずと、部下は寝せても、ひとり寝もやらず、床几にかかったまま、篝へ向って居眠っていた。
――と。小銃のひびきがした。
近い。
らんと、眼をあげて、余韻を聞いている大和守のひとみに、篝の火が、煮えていた。
「どこだ。方角は」
陣幕の外にゆくと、哨兵のひとりが、