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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

釘付け

下野はいよいよ恐懼して身をちぢめた。四、五十名の一小隊をあずかる侍頭に過ぎない身分を顧みて、思案に余るものらしく見えた。

「おうけせい」

主君のゆるしに、ほっと、面を上げると、下野は、こういった。

「何の功もありませぬに、身に余るお盃は、おそらく祖先の功を思召されてかと存ぜられます。てまえ一個がいただいておくには過分。お盃ぐるみ頂戴して、ほかの五、六名の衆にも頒け、帰国ののちは、春日山城にあるほかの衆にもいただかせたく存じます。……願わくばどうか、そのお盃ぐるみてまえに」

「よろしかろう」

前嗣は、自身の懐紙を取り出して、盃を包み、あらためて下野にそれを授けた。

釘付け

整備はととのった。上毛、房総の兵をあわせた管領軍は、謙信の指揮のもとに、北条氏康の罪を鳴らして、

「降伏か、滅亡か」

を、小田原の城下に迫った。

その年、三月から四月にわたっての、攻防戦はつづけられた。花も散って、春は徂こうとしていた。

陣中の客、近衛前嗣は、

「一日も早く、宇内に大志を展べられるよう、陰ながら祈っています。四民のために」

と、ここで別れて都へ帰って行った。

合戦の際であったが、謙信は足柄境までこれを見送って、