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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

啄木の戦法

また旭山の一城は、髻山の砦よりも、この戦場の地に近い善光寺と犀川の中間にあるのだから、大いにそこは恃むべき拠点であるにもかかわらず、謙信は、それすら遥かに捨てて顧みもしなかった。

初め信玄が茶臼山から雨宮の渡しへ陣して、そこの旭山城と妻女山とのあいだを遮断するに至っても、妻女山の謙信には、好んで死地を迎え、その孤立を光栄としているものとしか見えぬ。四十余年の半生を、きょうまで殆ど戦場に過ごして来た信玄も、まだ、曾てこういう敵を見たことがないし、こういう陣法のあることを知らない。

啄木の戦法

狭間の外は、乳いろに煙っていた。霧とも小雨ともつかないものが降っているらしい。

「兵部は、どう存ずるか。忌憚なくいえ」

信玄の眼がそそぐ。琥珀の玉のような眼だ。その眼のうごきを中心に、きょうも軍評定だった。

海津城の中である。大仏の胎内にでも居るように薄暗くて洞然たる感じがする。

昼間だが、所々に、燭が置かれ、湿々とまたたいていた。

評定に列しているのは、一族、宿将、城主の高坂弾正など、極く限られた範囲の有資格者だけに過ぎなかった。

飯富兵部虎昌は、甲山の猛虎といわれている勇将である。