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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
白珠一万三千露
た。
白珠一万三千露
長陣となると、倦み易い。
敵には強い兵も、退屈と闘うことは容易ではない。
倦み――飽く。
この惰気からわく霧のような心中の敵は、ともすれば不平をささやき怯みを誘い、仲間同士のあらを挙げては不和を醸し、また、郷愁を覚えさすなど――あらゆる煩悩の弱点を衝いて、鉄壁の士気を潰乱しに蒐って来る。
一日とて長い長い戦場だ。それを二十日も一月も対陣のまま、じっと息をこらしている兵は、外には戦っていないが、実は箇々の心の内面に、戦い以上の闘いをしている。
――己れに勝つ!
これへの闘いである。これはまた外の敵に打勝つよりも難しくて、より以上の烈しい気力を要するものであり、長陣となればなるほど濃くなって来る日々の声なき苦闘であった。
だが。
ふしぎにも、この妻女山の兵には、そんな沈澱は見えなかった。
日々、爽やかな秋が送られている。雨の日とて、霧の日とて、じっと一万三千余人の心が、ひとつ塊りになったまま、蕭条たる中に、煙っていた。これを、不動の体というか、朝霧の陽に霽れあがるときなどは、全軍ひとつの精神から湯気が立ちのぼっているように見られた。