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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
一 先祖の御旗持 高坂弾正
一 孫子の御旗持 山県三郎兵衛
一 右方、南天弓 小山田備中守
一 左方、南天弓 馬場民部少輔
一 陣太鼓 跡部大炊介
一 陣貝 長坂長閑
一 御打物 飯富兵部少輔
一 青貝の槍 小畑山城守
一 拍子木 甘利左衛門尉
総帥信玄は、やや離れた位置にあって、一族、旗本をうしろに、床几へ腰かけている。
右手を繃帯していた。その白い布がわけてここには目立つ。また、無言に甲州武士の胆心に何ごとかを訓えている。
その床几の前へ、恭しく、一人の将が、祝肴をのせた折敷を捧げると、信玄は、その勝栗を一つ取って、左の手で、日月の大扇をさっと開く。
そして立上がるなり、大空へ向って、
「えいっ、えいっ、おおうっ……」
と、いう。
その大音について、諸大将以下、総軍の兵も、声いっぱい、
「えいっ、えいっ、おおうっ……」
と、凱歌する。
三度、繰返すのであった。
天下泰平、国土安穏、万民安全、怨敵退散。
南天の弓が、ぴゅっ、ぴゅっ、と風を斬る。
ふたたび、天地もとどろくばかり、えいっおうっ――をさけぶうちに、それはただの喊呼となり、歓声となり体じゅうの熱気と感動を空へ放って、あとは自らわれ知らず頬に流れ下る涙となった。