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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
大義大私
そして何かしらここ十年来は忘れていたような快い安らかな眠りにひきこまれた。
この日までは、戦といえば、ただ惨たるもの、激しいもの、苦痛なもの、犠牲を出すものとのみしか考えられていなかったのが、にわかに、大きな意義に行当って、今や弊悪の脱殻、次への建設など、戦によらねば成しとげられない日本国全土の改耕こそ、戦であって、それに流す血も、それに埋める白骨も、すべてただその忠業に帰一してゆくものなることを彼も覚ったのである。
以来、義清は、眠るにも、安らかな鼾をかき、醒めても快活になり、また戦う日には、なおさら大らかに先頭へ立ち、年五十過ぎてからいよいよ勇敢であったという。
大義大私
川中島大戦後、もうひとつ謙信の気宇をあらわしたものがある。斎藤下野、黒川大隅などの甲州に捕われていた使者の一行が、信玄の寛度によって、無事、越後に帰って来てからである。
彼の寛度に対し、謙信ももちろん寛大な処置を早速にとった。国中に監禁している甲州方の隠密数十名を、春日山の城下に寄せ、
「おまえ達も主命をうけてこの越後に紛れ入り、空しく捕われて、獄中しか見て帰らなかったとあっては、主人にも不面目だろうし、身寄りや朋友にも肩身が狭かろう。