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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

「……どちらを向いても、同じような秋草の原、同じような川」

どこから来たのか。

ここにぽつねんと行き暮れたように立った旅の女は、西を見東を見、

「どう向いて行ったら?」

と、考えているふうだった。

漆で塗りかためた市女笠を被っている。物売りとも見えないが背に一包みの物を負い、裾は短かにくくりあげ、草鞋をうがち杖を持ちなど、なかなか凜々しい恰好である。――いい忘れたが年ばえはまだ二十歳に届いていまい。肌目のよい白い肌は雪国の処女をすぐ想わせる。そうだ、その風俗といい、目鼻だちも、越後の女に特有な美があった。

――と、鎌の音がどこやらで聞えた。さくさくと草を薙ぐ快い音である。彼女のまるっこい眼は急にそれへ動いた。

彼方の秋草のなかに、数頭の裸馬の背が見える。刈草を束ねて馬の背に積み終った者は、それを曳いて遠ざかって行く。――が、後にもなお一隊の草刈が、鎌をそろえて、河原の方へ刈り進んで来た。

「もし、甲州路へ出るには、どう行ったらようございましょうか」

不意に、女の声で、こう訊かれたので、草刈たちは驚いたように腰を上げた。これはみな近村の農夫らしいが、徴発をうけて、馬糧を刈ったり、道を拓いたり、運輸の手伝いなどしているいわゆる軍夫たちであった。