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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
程なく山上から新発田尾張守、鬼小島弥太郎などが、迎えというよりは、警固のために降りてきた。
「お目にかかろうと御意あらせられた。いざ、お越しください。御案内申す」
「大儀に存ずる」
一礼して、初鹿野伝右衛門は、ふたりの後に従った。もちろん部下も日傘も山麓に残してである。――そして単身、一歩一歩、踏み登ってゆく山道は、殆ど、上杉勢の旗と鉄刀と馬と銃と弓との中だった。
その途中、鬼小島弥太郎は、伝右衛門のそばに寄り添って、
「貴公は、それがしの顔を、覚えておいでなさるか」
と、たずねた。
伝右衛門は、微笑をふくみながら、
「あなたの顔は、なかなか忘れ難い。何といっても白あばたがよい目じるしになるしな――左様、あれはもう七、八年も前になりましょうかの」
と、いった。
「いや、七、八年ではききますまい。甲越の両軍が、まだここにまみえない以前ですから。十年にはなる」
「十年。はやいもの」
まるで久濶を叙べ合っている旧友のようだった。しかし二人の古い面識は、そんな温かいものでなく、思い出せばなかなか身の毛のよだつものだったのである。
その頃、小島弥太郎は、謙信の上洛に扈従して、京都へのぼった途中から、ふいに姿をかくした。