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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
杉窪はね、焼けてこわれて人が散って、お父様がなくなって、すっかり亡びてしまったんだとさ。……お父様がなくなってねえ」嗚咽の声がふともれた。
「だからね三吉や。宿なしなのよ、妾たちはね。どこへも行く事ができないんだわ。悲しいわねえ、三吉や!」キューッと猿をだきしめたらしい。
「キー、キー、キー」と猿がなく。あんまりしっかりしめられたので、痛いヨーと泣いたのだろう。「お前と毎晩お庭へ出て、鬼ゴッコをするのが楽しみよ。外に楽しみなんかありゃアしない。さあ三吉、鬼ゴッコよ」ヒョイと小猿をほうり出した。キーとなくと宙で返る。ともう後足で立っている。続いて立ち上がった女の姿、紅色勝った大振り袖、裾のあたりが朦朧と煙り、肩に斑を置いたは月影だ。
「とらえてごらん、とらえてごらん」ヒラヒラと一方へ走って行く。猿がその後を追って行く。
「とらえてごらん、とらえてごらん」反対の方へ走って行く。と猿が後を追う。
お庭が一時に深山となり、美しい孤独な山姫が、けものと遊んでいるようである。
と、再び一躍し、猿は女へ飛びついた。
つとかかえて胸へだく。
「袴様!」と空を見た。「お助け致す、君尾殿! お声が耳に残っている。