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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

君尾の運命?

絶壁に懸かった藤蔓づたい、身軽に忠三、スルスルとおりた。

ほとんど死骸の広太郎を、しっかりだきしめたイスラエルのお町、ワナワナ全身をふるわせている。

谷底から忠三の声がした。「あねご、大変だ、大変だ!」

君尾の運命?

「大変だ」と叫ぶ忠三の声、お町の耳へははいらない。お町うっとりと考え込んでしまった。

「不思議だねえ。夢のようだよ」まずつぶやいたものである。

「あの夜南蛮屋の南蛮部屋で、はじめてこの人と逢った時から、妾の心は変ってしまった。巻軸の秘密、ほしくもなく、ほしいのはこの人だった。どんなことをしたって手に入れよう。恋だわねえ、初恋ってやつさ」またここでじいッと考え込んだ。「それからというもの忠三にいいつけ、この人の様子を探らせていると、にわかに旅へ出たとのこと。『忠三のばかめ、目つけておいで!』毒づいてやったら可哀そうに、それでもあっちこっち聞き合わせたあげく、杉窪とかいう別天地へ、入り込んだらしいという人の噂。では行こうと出かけると、あのいやらしい城之介め、ついてついてつき廻る。中途でマイて来てみれば……こんな姿になっておられる。……それでも縁はあったってものさ。