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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
ネロ行き詰まる
叫ぶと一緒に広太郎を、ドンと地上へ置いたものである。手を伸ばすと広太郎の片袖、グイとばかりに引きちぎった。
ネロ行き詰まる
なぜ広太郎の片袖を島原城之介は引きちぎったのか! 広太郎の肩の傷口から、血がしたたっていたからである。
「こうむやみと出血しては、可哀そうに死んでしまう。死んでしまっては玉なしだ。せっかくのモクロミが駄目になる。何を置いても一介抱、どれ」というと腰をかがめ、ちぎった片袖をさらに裂き、クルクルと傷口を引き結んだ。
「よろしい」というと引っ抱えた。落ちていた鉄杖を拾いあげ、それからあたりを見廻したのは、つけてくる奴があるかないか、そいつを見きわめるためであろう。「大丈夫、どれ参ろう」
やぶの裾を歩き出した。と不意に城之介の姿、どこへ行ったものか見えなくなった。だが誰か人あって、しさいに耳を傾けたなら、周囲十町は充分にある。大藪地帯を押し分けて、奥へ奥へと歩いて行く、きぬずれの音を聞くことが出来、やがて遙かの藪地の底から、重い扉でも開くような鈍い物うい音がして、つづいて多勢の若い女の、泣いたり笑ったりわめいたりする。奇怪な合唱の声が聞こえ、ふたたび鈍い音がした時、はじめて夜の静寂が、立ち帰ってきたことを知ることが出来よう。