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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

一人碁

なんせ立ち合いの見物相手、思うままの悪口雑言。お政治向きを譏ったり、浮世の間違いをののしったり、善悪両道のトンチンカン、賢愚明暗の行き違い、そういうのをアテッコスッたり! 男女痴態の醜きを、やっつけたりしたのでござるからなあ。……ところがとうとう由井先生に、本心を見破られて説得されて今は武士! が実のところ拙者には、武士というもの移りが悪く、最近いや気がさしてござる。……オットどっこいしゃべりすぎた! あぶないあぶない杯が落ちる」

棹を手もとへ引いたものである。

ぐっと離れて篝火のそばに、ポツネンと一人すわったまま、碁を打っている武士がある。

一人碁

碁を打っているのは奥村八左衛門、由井正雪門下の中では、一番若い人物である。相手なしの一人碁だといって碁盤のある筈がない。白紙へ筋を引いたのが碁盤、碁石といっても同じく紙製、眼のないほどの囲碁好きで、どこへ何用で行こうとも、この二品だけは携えて行く。

「考えてみれば徳川の天下、ひっくり返すのもいいけれど、しかしおれには算砂以来の、名人の棋譜を一人残らず、頭へ入れた方がいいのだがなあ」こんなことを思っている。