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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

愉快の書面

「お京様をご存知ではありますまいか?」

「存じませんでございます。……君尾様をご存知ではございますまいか?」

「存じませんでございます」

臼井金弥と文三である。またパッタリ逢ったらしい。今だに探しているらしい。よろしい。探せ三十年も! だが絶対に目付かるまい。

愉快の書面

「お父上、書面が参りました」

こういったのは舞二郎。

「なに、書面、どこからだな?」

こうきいたのは平左衛門。

小松原家の裏座敷、庭に夏の陽があたっている。

「珍しい人からでございます。飛脚が持って参りました。袴広太郎殿とお京との連署で……」

「なるほど、珍しい。どれ拝見」

父子二人の眼の前へ、一通の書面がひらかれた。

「おなつかしいお父上様お兄上様」お京の書面にはこう書いてあった。「紀州大納言家の妾腹の姫、それが本当かも知れません。でも妾はどこまでも、小松原家の娘でございます。その方がうれしいのでございます。おなつかしいお父上様お兄様! でも妾はただ今では、木地師の娘でございます。そうしてそれが妾には、決して不幸ではございません。妾は大変かわりました。たっしゃになったのでございます。高い山の上に住んでおります。