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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
大捕り物
「あいよ」
といって引っかぶる。と、もう虚無僧姿である。街道へ出て江戸へ入る。雀色の夕まぐれ、さっと人波にさらわれてしまった。
慶安三年六月二日、天草の乱しずまってより、わずかに十二年を経たばかり、将軍家光存命ながら、狂乱の噂府内にもれ、物情騒然人心恟々、天下乱を思う折柄であった。
大捕り物
いずれ悪漢に相違あるまい、イスラエルお町と早引忠三。二人が江戸へ入り込んでから、十数日が経過した。とその時事件が起こった。
ここに一人の武士がある。
知行五百石でお旗本、代々の主人がつましかったからか、旗本仲間での大金持ち、富豪といってもよいほどで、本所錦糸堀に屋敷があり、無役ではあるが貴まれている。ちょっとおかしいが姓は袴、名は源兵衛といって五十五歳、その人の次男で広太郎、二十三でまだ部屋住み、養子にやるか別家させるか、金に不自由がない上に、父源兵衛の秘蔵息子、まあまあゆっくりというところから、気まま勝手に遊んでいる。しかし広太郎豚児ではない。剣道にかけては柳生流の免許、大力ではないが業には達し、据え物斬りでは名人である。筋肉しまり、背高く、江戸っ児らしい浅黒い顔、性質はむしろ憂鬱であるが、悪寒を与えるほどではない。