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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
母の形見
胸に垂らしているそのまるい物、いったい何でござんすね?」
松明を差しつけたものである。
「これかえ?」というとイスラエルのお町、首へかけた銀鎖、その先に着いている黄金のメダルを、大事そうに掌で支えたが、「形見のメダルさ、お母様のね」そういった声にはなつかしさと、悲しさがいっぱいにこもっていた。「打ち出してあるのさ、お母様の像がね。……可哀そうな可哀そうなお母様! お美しかったお母様! ……なくなられる前にお手ずから、妾の首へかけられたのよ」
「ナール」といったが早引の忠三、全くめずらしくしんみりとなった。「だがねえあねご、何と思って、そんな物をかけていらしったので?」
「なんでもないさ。お守りにだよ」
「ナール」ともう一度早引の忠三。「こいつはお守りになりましょうよ。雲の上からお母様、じっと見おろしておりましょうよ。殉教者ののぼる天国のね」
「いいえ妾の胸の上から」掌を捧げるとイスラエルのお町、眼の前へメダルを持って来た。松明の光にぼんやりと、打ち出された肖像が浮き出して見える。まぎれもないスペイン型、たけた若い美人である。と、お町うつむいた。メダルへくちびるを触れたのである。