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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
鞘あて
で二人の婚礼は非常な事件でもない限り、ととのうものときまっていた。金弥の得意、広太郎の焦心、このところ火花を散らしていたが、今や顔を合わせたのである。
「ほほう拙者の噂をな、それはそれは迷惑千万、ろくな事ではござるまい。噂といえばよく聞こえるが、いい換えると人の蔭口。ところでどうも蔭口というやつ、おおかた悪口に堕するものでな、例えばその人の口癖とか、または身振りとかいうようなものを、つい誇張していいたがるもので」ムカムカしているので広太郎、思わず火ぶたを切ってしまった。
鞘あて
噂とはすなわち蔭口である。広太郎のいったこの一言、金弥の胸へはピンとこたえた。というのは実際この時まで、蛇のようにノラクラした冗弁をもって広太郎の蔭口をいっていたからで、痛いところへさわられたのである。本来ならば赤面もの。しかるに金弥赤面しない、むしろかえって揶揄的になった。
「なるほどな。これは金言、さすがは袴広太郎氏、うまいことを仰せられる。がしかし愚考するところ、少しく矛盾してはおりませんかな」
「ナニ、矛盾? そんなはずはござらぬ」
「いつぞやの貴殿のお説によれば、座談はすべからく悪口たるべし、ということであったはず。