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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

「大オチ大オチ!」と手をうった。

「『イスラエルの神へにえささげようぞ』この手でゴロゴロころがして来た、大江戸のいいところの別嬪さんたちを、野郎、そこへ蓄えているのだ。その上取りためたお賽銭!」

「お賽銭?」と興味もなさそうに、「そんなものより妾にゃア、袴様の方が大切だよ! さあ急ごう、オイ忠公!」

「合点!」とばかり走り出した。

走りにくい走りにくい。路とはいっても名ばかりである。野茨が左右から手を出している。袖や裾を引っ張ろうとする。たけにもあまる雑草が、路の上を蔽うている。腐った落ち葉、足がすべる。ジクジクした沼、落ち込みそうだ! 大岩大木がたおれている。月光はささない。だから暗い。ところどころに葉もれの月! 枝葉がゆれて、光を乱し、チラチラ動くので幽霊だ!

忠三が先頭、お町が続き、その後からこぶんども! 縦隊をつくって突きすすむ。

と、にわかに早引の忠三、ピタリと足をとめたものである。

「あねご、聞きなせえ。ひづめの音!」

なるほど、遙かの行く手にあたって、十数頭の馬のひづめ、カッ、カッ、カッと聞こえて来た。藪地の中を、算を乱さず、こっちへ近寄って来るらしい。