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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

で二人は沈黙した。

閑寂でいい。平和でいい。情景にふさわしい沈黙である。

とまたお京が話しかけた。

「歌声が聞こえるではございませんか」

「さようでございますね、木地師の歌が」

眼界にバラバラと木小屋がある。そこから聞こえる歌声である。

「犬の吠え声が聞こえます」今度は袴広太郎。

「鶏の鳴き声も聞こえます」

で二人沈黙した。

閑寂でいい。平和でいい。情景にふさわしい沈黙である。

とまたお京が話しかけた。

「お聞きなさりませ袴様。赤ん坊の笑い声が聞こえます」

「ああそうしてあやしている声も……」

で二人沈黙した。

閑寂でいい。平和でいい。情景にふさわしい沈黙である。

「穏やかな土地でございますね」こういったのはお京である。

「はい、まるで別天地で」また沈黙が続こうとする。

「なんだか私はねむくなった」袴広太郎つぶやいた。

「動くのがいやになりました。いつまでもいつまでも、坐っておりとうござります」

五度沈黙をしたものである。

お京の顔には神性がある。昔ながらの神性が。お京の顔には処女性がある。昔ながらの処女性が。いやいや昔よりもより一層、神性も処女性も深まさっている。