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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

流され姫

生命力がないのだろう、少しあがってはすべり落ちる。でもやっぱりあがろうとする。二足三足やっとあがった。とスルスルと下へおりた。またヨチヨチと上へあがった。急に草の上へころがり落ちた。針金のような足をちぢめ、そのまままるくなって動かなくなった。触角がブルブルふるえている。それもとうとう動かなくなった。巨大ないかめしい鋼鉄のような角へ、一筋日の光がからまっている。

「おれには何だか予感がする。ここの平和は破られそうだ」ふと広太郎つぶやいた。すぐ眼の上にお京の顔が、すぐにもこわれそうなもろさを持って、清浄に白々と浮いている。「平和は処女性とは同じようなものだ。きっと破られるという約束のもとに、しばらく生命を保っているものさ」

口に出してはいわなかった。

酸味を帯びた感情が、広太郎の心へ忍び込んで来た。もちろんそれはかれにとっては、苦しくもあればさびしくもあった。

流され姫

お京の膝を枕とし、なお広太郎は考えていた。

「ほんとになんとこの娘は、操々としているんだろう? ほんとになんとこの娘は、神性神性としているんだろう? そうしてなんとこの娘は、処女処女としているんだろう? 人間ばなれがしているではないか! 神様神様としているではないか! だから」