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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

広太郎は憂鬱になって来た。「だから傷つけて見たくもなる」

次第に皮肉な考え方になる。

「全く神様というものは、さも崇高に立っている。だから」

とまたも皮肉になった。「ちょっと穢して見たくもなる」

次第に残忍な考え方になる。

「誘惑の手を伸べたなら……神様神様としたこの娘、転がって来るのではあるまいか?」

「いけない、いけない」と払いのけた。「傾城塚での蠱惑が、亡霊のようにつきまとっている。しかし」とやっぱり考えられた。「傾城塚でのあの光景、女の真相ではあるまいかな」自然不作法にならざるを得ない、眼をズーッとあげていった。その視線のとまったところに、お京の胸がもりあがっていた。豊かな乳があるのだろう。広太郎は息苦しくなった。「この膝枕も無邪気からかしら? それとも意味のある誘惑からかしら」

そのやわらかさ、その温かさ、その弾力、その脈搏! 広太郎の情熱をそそっている。

その時お京の声がした。

「お起きなさりませ、袴様」

起きあがると広太郎端坐した。

「何を考えておられました」とがめるような声ではない。憐れむような声でもない。悲しみに充ちた声である。

広太郎には返辞が出来なかった。