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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

「朱舜水先生のお手もとで」

「ああなるほど。それならよかろう」安心したような様子であった。

同じ年の七月となった。その時起こったのが慶安謀反! そうしてこれは失敗した。頼宣卿が手を引いたのが、最大の原因ではあったけれど、直接の原因は忠弥の短慮と、奥村八左衛門の裏切りとにあった。天草時行の先見が、ピタリと当たったということになる。その時行だがどうしたろう? 処刑された人数の中にもいない。彼、老獪逃げてしまったらしい。しかしその後も彼に関しては、なんら評判が立っていない。歴史の前にも現われていない。しかしこれは当然である。由来歴史というものは、明るい往来の真ん中で、花やかに大きく成功したものか、花やかに大きく失敗したものかの、外的行動ばっかりを、書き記したものにすぎないからである。天草時行陰性の梟雄、いつも薄暗い露路に巣くい、金儲けばかり考えている玉だ。で、恐らくその後といえども、やはりどこかの露路に巣くい、「儲からんもの、万事悪い!」――などと例のみつ口で、ネチネチと部下にいい含めながら、金儲けをしたということは、保証をしてもよさそうである。

それはとにかく、慶安騒動で、江戸が動揺をしている最中、日本橋の真ん中で、夏の熱い日を浴びながら、こんなことを話している人物があった。