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けんきょうじゅなん

剣侠受難

国枝 史郎

「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页

青空文庫

敵地へ乗り込む

いよいよ一騒動なくてはならない。

敵地へ乗り込む

喧嘩するにもゆするにも、あらかじめ敵の状況なるものを、知っておかなければ都合が悪い。巴小路の住人ども、巴御殿の借り主を、そこでこっそり探ってみた。天草殿と呼ばれている、一見貧弱な老武士と、築土新吾と呼ばれている、威風堂々たる中年の武士。それから煮焚きをするお婆さん、住み手はわずか三人と知れた。

「なんだ、たった三人か、二本差しなんかにゃあ驚かない。ねじ込んで行け、ねじ込んで行け」

すっかりなめて掛かったが、間もなく見当がはずれてしまった。なるほど住み手は三人ではあるが、続々と異風の人間が、出たりはいったりするからで、武士姿の者、町人風の者、無頼漢風の者、旅姿の者、しかもそれらが揃いも揃って、足の運び眼の配り、普通尋常な者ではない。

「驚いたなあ、何者だろう? どっちみち大変な奴らしい。こいつアちょっと手が出せねえ」残念ではあったが巴小路の住人、指をくわえて引きさがってしまった。

さてある日の午前である。この物騒な巴御殿の前へ、姿を現わした武士があった。

「四谷左門町播磨守様の裏手、黒板塀に巴の印、うむ、この屋敷に相違ない」