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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

三十六

」

遠山金之助、

「え。」

竹永丹平は、さもこそという片頬笑み、泰然自若として、

「ま、ま、お聞きなさい。ここだ、これが眼目、此経難持、若暫時、この経は保ち難し。

もししばらくも保たんものは、ただお夏一人という処でがすから。」

三十六

「そこで女房は、

(なるほど、貴女には似合いません、でございますよ。)

愛吉傍在。で、その際、ちと諷する処あるがごとくにいって、洋燈を持って階下へ下りた。あとはどうしたか知らないそうでさ。

勿論普通の人間じゃ寐られるどころではなかったが、廓出の女房。生れてからざっと五十年。一年三百六十五日、のべつ、そんな処には出会していたんだから、さしたる大事とは思わなかったし、何が何でも人殺の相談をしようなどとは、夢にも、この私にしたって思いませんや。

その後で、愛吉の鼻のさきへ、顔と一緒に、白薔薇の壜を押つけか、何かで、

(可いかい。この匂いだよ。もう一つはね、くらがり坂へ行ったら、奥さん! とその梅岡さんが四辺を見計らって声をかけて下さるように、相談をして置くから、可いかい! この薫と、その奥さん! を暗号にして、……とくれぐれもおっしゃったんで。