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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「ち。どうしたことだろう。いったい、どういうわけなのか?」

たちまち、わが屋敷。――この血相で妻をただした。だが、妻も召使も彼の前に打ち悄れ、泣いて詫びるのみである。火事騒ぎとかのいきさつ、前後の模様、事細かに訊き取ってはみたものの掴み得るところは何もない。

「さては、前々から狙われていたか。何奴かが忍者を使って、盗み奪らせたにちがいない」

不覚だった。考えてみれば、日頃に思いあたりはいくらもある。

徐家の薄羽ノ鎧といえば、余りにも有名なので、諸侯の武門や将軍から一見を請われたり、ぜひ譲り受けたいなどの交渉は一再でなく、わけても大将軍花児王からは、銭三万貫の値さえつけて、数度の使者が来ていたほどだ。

「ああ、ご先祖にも申しわけない」

死んだ子の通夜を傷むような一夜が明け、次の日も、徐寧は茫然、腕拱いて鬱ぎこんでいるばかり。すると、思いがけない客が、折も折、ぶらりと訪ねて来たものだった。

「お従兄さまの、湯隆とか仰っしゃるお方で」

と、いう召使の取次に。

「え。あの銭豹子か」

なんと、あいにく浮かない日ではあったが、さっそく通して、久闊をあたため、さて何用でと来意を訊くと、客の湯隆は、旅包みの中から、二タ竿の黄金、おもさ二十両を、そこへさし出して。