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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
敵国のため、軍の機密を盗みに忍び込んだか、または、高閣下に怨みをふくんで、お命を窺いおったか。いずれかに相違あるまい。――それっ、あの手に持っている宝剣を用いさせるな」
兵士らは、どっと喚きかかり、林冲の体を圧ッ伏せ、高手小手に縛り上げて、その日のうち獄へ下げてしまった。
獄は、開封奉行所の構内にある。時めく高家から下げられた罪人だし、罪状云々とあっては、ただ、首斬れといわぬばかりな囚人だ。しかし府尹の職として、そうもならない。奉行はこれの調べを、与力役の孫に命じた。そして、一応の証拠固めをなすまでの時日を藉した。
これは、林冲にとって、受難中にも一つの幸いだったといえよう。はたまた、彼がこの世に果すべき人間業のいまだつきざるところだったか。
与力の孫は、名を定といい、囚人からも世間からも、慈悲心のある良吏として、慕われていた。綽名といえば良いほうにはつけないものだが“仏孫子”といえば知らぬものはない。
孫は、日ごろから林冲の人となりを知っているし、また、節堂事件が、高家の捏ッち上げくさいことは、すぐ感づいたので、われから進んで、いきさつを洗ってみた。