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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「この香苞ですか」
「まあ、いい匂い。ねえ秀さん、これきっと沈香とか栴檀とかっていうものよ。あの方丈さまは、お生れは都で大きな糸屋の若旦那だったんですとさ。だから気がきいてるわね、こんなおみやげ一つにしてもさ」
「世間で報恩寺の裴如海……また海闍梨ともいわれているお方ですね」
「そんなむずかしい法名なんて、わたし呼ばないわ。ただ師兄さんて呼ぶのよ。だって、うちのお父っさんは、古いご門徒でしょ。だから如海兄さんが方丈さまの位置にすわるときなんかも、ずいぶんお世話したものだしさ」
こんな立話のまも、彼女はそわそわとのおくれ毛や唇紅の褪せを気にして、また、つと鏡の間へ入って、身粧いを見直し、それからやっと如海の前へ出て、婉然と、あいさつしていた。
「これは」
と、裴如海は、生き仏のようにすうと椅子を立ち、いんぎんに、頭をさげる。
福州みどりの法衣、紫印金のケサ、そのも西域唐草の凝ったもの。
――ことば少なに、あとは流し目で、
「いつも、おすこやかで」
と、ひとみに、えならぬ情気をトロと焚いてみせる。巧雲は、すぐ打解けて言った。
「いやよ師兄さん、そんなおかたいこと」