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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「ごめんなさい」おすえは赤くなった、「あたし立派になったっていうつもりだったのに、つい口がすべっちゃったんです」

栄二も赤くなったが、おすえのほうへは眼も向けなかった。

「おすえちゃんは幾つになった」

「十六です」とおすえは多市に答えた、「躯が小さいから十二、三にしきゃみえないって、よくみんなにからかわれるんですよ、恥ずかしい」

廊下に人が立ち、こっちを覗きこんだ。この家の姉娘であるが、そこへまた一人、妹娘が通りかかって、姉のうしろから首だけ出して覗き、あら栄ちゃんだわと云った。姉はそこを動かなかったが、妹のおそのは座敷へとびこんで来、栄二の前にばたんと坐って、大きな眼でじっと彼をみつめた。おすえは会釈をして出てゆき、栄二が眼の隅でそのうしろ姿をちらっと見た。

「まあおどろいた、あんた栄ちゃんじゃないの」とおそのが顔を輝かせながら云った、「大きくなったわね、びっくりしちゃったわ」

多市が唇だけで笑った、「いまそれを云われたばかりなんですよ」

「栄ちゃん」とおそのは多市には構わず、栄二の眼をみつめたままで云った、「あたし誰だかわかって」

「おそのさんですよ」