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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
それは金太で、柱と柱の組み合った下で四ん這いになってい、水をよけるため横に捻った顔の半分が水につかっていた。
「あぶなかったな」と万吉が助け起こしてやりながら云った、「もうひと息ってとこだったじゃねえか、十両がとこ拾ったような心持だろう」
「済まねえ、みんなありがとよ」金太は水びたしの髪を手で押えながら幾たびも頭をさげた、「おらもうだめかと思った」
「さあいそげ」松田が手を振った、「ぐずぐずするんじゃあねえ、役所の前へ集まるんだ」
いっしょにあるきだしながら、栄二は初めて恐怖を感じた。これは大変だぞと思った。この島はもと洲だったのである、大川から吐きだされる土砂が溜って洲となり、そこへ土入れをして島にしたものだ。これまでにさえ膝につく水があがっているから、風がこれ以上吹き続けば、島ぜんたいが水の下になるかもしれない。栄二がそう思ったとき誰かが、上げ潮はいつだと叫んだ。
「明けの七つ(午前四時)ごろだ」と叫び返すのが聞えた、「だがいまはなん刻だ」
八つだろうと答える者があり、ほかの声は聞えなかった。役所の前は水が浅く、足のくるぶしまであるかなしかで、そこには人が犇いてい、縁側には役人たちと、寄場奉行の姿も見えた。