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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
九の四
「褒めてもらうほどのことじゃあねえさ」と栄二が云い返した、「けれども、さぶを鈍いやつだと云ったのは悪くちじゃあねえぜ」
「そんなことわかってるわよ、あんたとさぶちゃんの仲ですもの、あんたが悪い気持でそんなことを云う筈がないじゃないの」
「そんならなにを怒ってるんだ」
九の四
おのぶはまた、栄二の顔をまともにじっとみつめた。
「さぶちゃんが小舟町からなぜ暇を出されたか、あたし栄さんならすぐに思い当るとおもってたわ」
「のぶ公はどうなんだ」
「あたしはばかだからだめ」と云っておのぶはべそをかくような顔をした、「でもさぶちゃんの話す口裏から、およそのことは察しがついたわ、そう云えばあんたにも察しがつくでしょ、栄さん」
栄二は壁の一点をみつめたまま考えてい、口の中で「まさか」と呟いてから、おどろいたようにおのぶへ振り向いた。
「まさか、そんな」と彼は云った。
おのぶはゆっくり頷いた、「そうなのよ、本当のわけはそれなのよ」
「だってさぶは用心した筈だ、人に気づかれない用心ぐらいした筈じゃないか」
「五日ごとにどこかへでかければ、どんなに用心したって、人の眼につかずにはいないでしょ」