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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

とおのぶは云った、「――それでなくっても栄さんのことで、小舟町では神経を尖らしてたでしょうもの、そんなためしのないさぶちゃんが、五日めごとにそっとでかけるのを、気づかずにいる道理がないじゃありませんか」

栄二は口をつぐみ、腕組みをして眼をつむった。そうだ、寄場にいるおれをたずねたため、さぶは暇を出されたのだ。疑われないように用心したことだろうが、さぶにはそれほど巧みなことはできない。おれのところへ差入れに来る、ということがわかったら、芳古堂でそのままにしておけないのは当然だろう。親方の芳兵衛にとっては、なにより「芳古堂」の名が大切なのだ。栄二は歯を噛みしめた。それで顎の肉の動くのが見えた。

「あたしがなぜこんなことを云いに来たか、栄さんにわかって」とおのぶが云った、「――ねえ、栄さんは自分のされたことがゆるせなくって、ここから出たら思う存分に仕返しをする、っていうつもりらしいわね」

栄二はなにも云わなかった。

「その気持はよくわかるけれど、それはあんまり自分本位すぎやしないかしら、ねえ、うまく仕返しができればいいわ、でも相手だってそれをぼんやり待ってやしないでしょ、向うには金も力もあるのよ、現に無実の罪であんたがここへ送り込まれたじゃないの、もちろん、それだって人間の一心ほど強いものはないというから、仕返し