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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
それらが木更津周辺の漁船で、網を曳いて魚を捕りながら芝浜へ着き、芝浜で魚をおろすと、また魚を捕りながら房州へ帰る、ということは、誰から聞くともなく聞いていた。
「七月のあらしのときはどうしたろう」栄二は眼を細めて、みごとな白帆の群れを眺めながら呟く、「――漁に出ていた船もあったろうし、出ていたとすれば逃げきれずに、沈んじまった船もあるだろう、女房や子のある男は、もう助からないとわかったときどんな気持だったか、亭主に死なれた女房や子はどんなに嘆いたか、おそらく海を呪い、漁師という稼業を憎んだことだろう、それでもやっぱり、ああして漁をする者が絶えないんだな」
南の海辺ですごすとき、栄二はひっきりなしに独り言を云う、その大半はさぶとおすえのことであり、自分をなだめようとする役人たちへの嘲笑であった。
十月になり、護岸修理もあと一日か二日で終るところまできていた。そのためもっこ部屋の人足たちの多くは、埋立て工事のため出仕事にまわされ、南の浜現場には小頭の伝七とも七人しか働いていなかった。――その日は朝から風が強く、海はひどく波立っていて、杭打ちをするには干潮を待たなければならなかった。