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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
松田権蔵の両手が拳になり、その拳がぶるぶるとふるえた。栄二は悲しさで胸がいっぱいになった。そっくりそのままだ、おれもこんなふうに赤鬼を怒らせたことがある。松田が親しく近づこうとしたのを、冷淡に、容赦もなく突っ放した。あのとき松田はおれを殴りたかったろう、いまのように怒りで全身をふるわせていたが、「うせやがれ」と云っただけでその怒りを抑えつけた。どんなに憎らしく、癪に障ったことだろう、おれはいやな野郎だった、と栄二は思った。
「それを知っているなら」と松田権蔵がくいしばった歯のあいだから云った、「この寄場の規則も忘れやあしないだろう、その花札をこっちへよこせ」
「どうするんです」義一はにっと歯を見せて笑った、「賭場を開くんなら、あっしが札を配りますぜ」
「ここでは博奕は御禁制だ、花札一枚でも許すことはならねえ、こっちへよこせ」
「これはあっしが、身銭を払って買ったもんですぜ」
「こっちへよこせ」と松田が叫んだ。
十二の三
義一はへらへらと笑った。花札をこっちへよこせと叫んだとき、松田権蔵の怒りは頂点に達していたようだ。それを聞いた栄二は、自分がどなりつけられたように思い、恥ずかしさで身がすくんだ。