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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「おれも正直に云おう」と栄二が深く息を吸いこんで、大きく吐きだしてから云った、「――おめえはな、さぶ、おれにとっては厄介者どころか、いつも気持を支えてくれる大事な友達なんだ、正直に云うから怒らねえでくれよ、おめえはみんなからぐずと云われ、ぬけてるなどとも云われながら、辛抱づよく、黙って、石についた苔みてえに、しっかりと自分の仕事にとりついてきた、おらあその姿を見るたびに、心の中で自分に云いきかせたもんだ、――これが本当の職人根性ってもんだ、ってな」

「やい、いいかげんにしろ」と二人のうしろでどなる声がした、「なんの相談か知らねえが、こっちはいいかげん待ちくたびれたぜ、二人とも立ったらどうだ」

栄二とさぶが振り向いた。うしろに三人、暗がりでよくわからないが、やくざめいた男たちが立っていた。さぶは慌てて立ちあがろうとし、栄二がそれを抑えた。

「待てよ」と栄二はしゃがんだままで静かに云った、「いま大事な話をしているところなんだ、用があるならあとにしてくれ」

「そうはいかねえ」と次の男がひどく穏やかな声で云った、「こっちはもう待ちくたびれてしびれをきらしてるんだ、立ちな、若いの」