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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

三の一

「そんなら」とさぶは舌ったるい調子で、さぐるようにきいた、「その、――おすえちゃんていうのは、もう」

「そうじゃあねえ、そうじゃあねえんだ」栄二はさぶの言葉から身をよけるように云った、「向うはなんにも知っちゃあいねえ、おれの独り合点なんだ、おれは昔っから好きで、できたらいつかいっしょになりてえと思ってた、いまでもそう思ってるが、今夜かぎり、そんなことは考えねえことにするよ」

さぶがやや暫くして呟いた、「――いろいろなことがあるんだなあ」

栄二はなにも云わなかった。伝六のいびきが低くなり、小僧の定がなにか寝言を云った。みんな眠ったのかと思われるころ、栄二の囁くような声が聞えた。

「生きていればな」そして彼は溜息をついた、「――生きているうちはな」

三の一

「おんとし二十と三にならせたまいて」とさぶは反故紙の文字を読んでいた、「――おんとし二十三ていうと、おれたちとおないどしっていうわけだな」

栄二は襷を直し、糊皿で糊を延ばしながら、左手の甲で額をこすった。

「読むのはよせよ」と彼はさぶのほうを見ずに云った、「皺になると使えなくなるぜ」

「ちゃんと鏝がかけてあるよ」