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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

すると、その間に、侍臣がそっと彼に耳打ちした。

「許攸の言はめったにお用いになってはいけません。下将の分際で、嘆願に出るなど、僭越の沙汰です。のみならず、あの男は、冀州にいた頃も、常に行いがよろしくなく、百姓をおどして、年貢の賄賂をせしめたり、金銀を借りては酒色に惑溺したり、鼻つまみに忌まれているような男ですから」

「……ふム、ふム。わかっとる、わかっとる」

袁紹は二度目に出てくると、穢いものを見るような眼で、許攸を見やって、

「まだいたのか、退がれ。いつまでおっても同じことじゃ」と、叱りとばした。

許攸は、むっとした面持で、外へ出て行った。そしてひとり憤懣の余り、剣を抜いて、自分の首を自分の手で刎ねようとしたが、

「豎子、われを用いず。いまに後悔するから見ていろ。――そうだ、見せてやろう、おれが自刃する理由は何もない」

急に、思い直すと、彼はこそこそと塹壕のうちにかくれた。そしてその夜、わずか五、六人の手兵とともに、暗にまぎれて、官渡の浅瀬を渡り、一散に敵の陣地へ駈けこんで行った。

溯巻く黄河

一

槍の先に、何やら白い布をくくりつけ、それを振りながらまっしぐらに駈けてくる敵将を見、曹操の兵は、