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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
「拙者は、潁上(安徽省・潁上)の単福と申し、いささか道を問い、兵法を学び、諸国を遊歴している一介の浪人にすぎません」
単福は、それ以上、素姓も語らず、たちまち話題を一転して、こう求めた。
「さいぜん、あなたの乗っていた馬をもう一度、庭上へ曳きだして、拙者に見せて下さいませんか」
「おやすいことです」
玄徳は、直ちに、馬を庭上へひかせた。単福は、つぶさに馬相を眺めて、
「これは千里の駿足ですが、かならず主に祟りをなす駒です。よく今まで何事もありませんでしたな」
「されば、人からも、たびたび同じ注意をうけましたが、祟りどころか、先頃、檀渓の難をのがれ、九死に一生を得たのはまったくこの馬の力でした」
「それは、主を救うたともいえましょうが、馬が馬自身を救ったのだともいえましょう。ですから祟りは祟りとして、一度はきっと、飼主に禍いします。――が、その禍いを未然にのぞく方法も決してないではありません」
「そういう方法があるならば、是非、お教えを仰ぎたいが」
「お伝えいたそう。その方法とは、すなわちかの馬を、しばらくの間近習の士に貸しておくのです。そしてその者が祟りをうけて後、君の手に取り戻してご乗用あれば、まずもって心配はありません」