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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
五
孔明の故郷――斉国の史歌である。
声の主は、鍬をもって畑を打つ孔明か、豆を苅って、莢を莚に叩く弟の均であった。
五
隆中の彼の住居へ、或る日、友人の孟建が、ぶらりと訪ねてきて云った。
「近日、故郷へ帰ろうと思う。きょうはお別れにやって来た」
孔明は、そういう先輩の面を、しばらく無言で見まもっていたが、
「なぜ帰るのです?」と、さも不審そうに訊いた。
「なぜということもないが、襄陽はあまりに平和すぎて、名門名族の士が、学問に遊んだり政治批評を楽しんで生活しておるにはいいかも知れんが、われわれ書生には適さない所だ。そのせいか、近頃しきりと故郷の汝南が恋しくなった。退屈病を癒しに帰ろうと思うのさ」
聞くと、孔明は、静かに顔を横に振って、
「こんな短い人生を、まだ半途も歩まないうちに、君はもう退屈しているのか。襄陽は平和すぎるといわれるが、いったいこの無事が百年も続くと思っているのかしら? ――ことに、君の郷里たる中国(北支)こそ、旧来の門閥は多いし、官吏士大夫の候補者はうようよしているから、何の背景もない新人を容れる余地は少ない。むしろ南方の新天地に悠々時を待つべきではないかな」