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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

雪も風もつのるばかり、日が暮れますぞ、ぐずぐずしていると」

玄徳は、振り向いて、

「野人。静かにせい」と、叱った。

そして、均にむかい、

「かく、お妨げ申していても、この吹雪では、今日のお帰りは期し難いでしょう。他日、あらためてまた、推参することにします」

「いえ、いえ。たびたび駕を枉げ給うては、恐縮の至りです。そのうち気が向けば、兄のほうからお伺いするでしょう」

「なんぞ先生の回礼を待たん。また日をおいて、自身おたずねするであろう。ねがわくは、紙筆を貸したまえ。せめて先生に一筆のこして参りたく思う」

「おやすいこと」

諸葛均は、立って、几上の文房四具を取り揃え、玄徳の前にそなえた。

筆の穂も凍っている。玄徳は雲箋を手にして、次の一文を認めた。

漢の左将軍宜城の亭侯司隷校尉領予州の牧劉備。

歳両番を経て相謁して遇わず、空しく回っては惆悵怏々として云うべからざるものあり。切に念う、備や漢室の苗裔に生れ忝けなくも皇叔に居、みだりに典郡の階に当り、職将軍の列に係る。

伏して観る、朝廷陵替、綱紀崩擢、群雄国に乱るの時、悪党君をあざむくの日にあたりて、備、心肺ともに酸く、肝胆ほとんど裂く。