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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
川原の花
と、謙信は、さっさと自分から対談を切上げて、傍らに控えていた老将に何やらいいつけると、後方の幕を揚げて、仮屋のうちへかくれてしまった。
客迎えの和田喜兵衛、老将の旨をうけて、残された使者を、幕囲いの外へ誘い、べつな仮屋に席を設けて、酒肴をもてなした。
「主君謙信公からのお心づけです。陣中、何もありませんが、ほんのお弁当がわりに」
こういう中の使者に対して、行届いたことと感じながら、伝右衛門は杯をうけた。喜兵衛は、白木の折敷に肴を取り分けて、
「ただ今、鬼小島どのを、これへ呼んで参りますから、悠々おはなしを」
と、会釈して立去った。
川原の花
折敷の上の肴を見ると、この辺の川魚や蔬菜ではない。越後の海の物だ、また雪国の珍味だった。酒はもちろん清酒ではない。しかし甲斐や信濃のそれとは比較にならないほど香りが佳い。――こんなものまで携えているようでは、兵糧の荷駄にもおそらく莫大な量を積んで来ているにちがいない。
伝右衛門はすぐそんなことを考えめぐらしていた。そのうちに、鬼小島弥太郎が、ただ一人で接待に来た。
「ここでは、どうか御遠慮なく、おくつろぎ下さい」
弥太郎はまず自分から打解けて見せた。