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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

謙信に何ら策無し、無策を以て策とする、虚白、無縫の体。そんな事、何度もいう要はない。ただ一言でも悟り得いでか」

と、いつにない叱り方だった。

「はいっ……」と、恐懼しながらも、こう主従顔のそろった絶好な機を逃すまいとするものの如く、大和守は喰いさがって、

「畏れながら、わが殿の大腹中、いのちを一つと誓い参らす臣等として、分らいで如何いたしましょう。――さはいえ、敵の信玄は、去ぬる後月の二十四日以後、海津の城に入って、悉皆戦備をととのえ、糧を満たし、万全を期してなお動かず、飽くまで、お味方を長陣に倦ませ、ひとたび虚あらば、電撃一挺、必勝の勝目を見て事を果さんものと、いわゆる満を持して機を計るの自重をかたく持っておりまする。――顧みて、お味方を案ずるに、今となって、善光寺方面より兵糧の運輸を計らんにも、途中、武田勢の奇襲あるは必定。また、それらの通路も遮断されて、御本国との書状の往来すらままならぬことは先にも度々申しあげてある通りです。かくて、穀糧はいうに及ばず、士卒はもう死馬を喰い、木の皮を煮、じっと、お旗本のうごくまではと、弱音もふかず頑張っておりまするが――かかる敢なき我慢がどれほど続くものではありませぬ。