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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
達観
達観
「御陣形変えのお布令ですっ」
「陣立更えですぞっ」
百足の旗さし物を背にさした騎馬武者が幾人も、味方の諸部隊へ馳けわかれて、その陣地陣地へ、火のつくように告げていた。
「山県殿の御手は、先陣のまっただ中に押進み、白桔梗のお旗を目じるしに立てよとの軍令です」
「武田典厩信繁どの、また穴山玄蕃どの御人数は、山県どのが白桔梗の御旗を見て、その左陣に」
「右陣には、諸角豊後どの。内藤修理昌豊どの」
「御中央に信玄公、旗本衆」
「次いで左脇の備え。原隼人どの。武田逍遥軒様」
「右脇には、武田太郎義信様。望月甚八郎どの。――また後陣としては、跡部大炊介どの、今福浄閑斎どの、浅利式部少輔どの……」
忙しげに、高らかに、また急に、彼方此方で百足隊の伝令たちが、こう告げわたり馳け廻りしているまに、はや先陣山県三郎兵衛の隊、その他の部隊が、峡を出る雲のように動き出したが――時すでに遅かったといえる。
もう謙信のすさまじい輪形陣の流動は、すぐ目の前まで接近していたのである。
その接近法は、いわゆる突入直撃式でない。巨大な鉄鎖の連環がたえまなく旋り旋り近づいて来るので、戦闘力の鋭角はどこにあるかといえば、そうしているまに敵の先陣と体当りした所がすぐそのまま鋭角となるものだった。