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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
血中行
「果たして、勘介入道の首級であったか否か、明確でない」
と、疑問に附されてもいる。
もっとも、山本勘介という人物そのものの在否すら、むかしから問題になっていて、「武功雑記」には、上泉伊勢守とその弟子の虎伯とが、京都の帰途、三州牛久保の牧野家で、山本勘介と出合ったことが記載してあり、「北越軍記」には、居たようにも誌し、居なかったようにも書いてある。「甲陽軍鑑」の信玄公軍法の御挨拶人としては、
――馬場美濃、軍ノ成サレ様ヲ申シ上ル也。他国ニテ陣場ヲ見定メルコト、ソノ他ノ布陣、原隼人、モツパラ御談合ヲ受ク
とあって、いわゆる帷幕の軍師として隠れない山本勘介なるものの名は見あたらない。
とはいえその甲陽軍鑑や武功雑記などからして、どの程度まで真をおけるものかとなると、やはり限度がある。
で、ここにはやはり勘介なる人物がいたものとし、ただその最期のもようをつぶさにするよすがもない遺憾だけを記述しておくにとどめる。
血中行
鉄砲の火が枯れ葉に燃えついたのか、蹴ちらされた営内の火の気が野火となったものか、川中島一帯の空は、墨を流したような煙である。
その煙の中に、もう未の刻(午後二時)に近いかと思われる太陽が、一粒の珊瑚のように燻されていた。