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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

静夜

川中島の戦も果てたあと。

春日山の城下は一しきり人と人とが寄りあえば、そうした噂にもちきっていた。

そして毎日のように、戦死者の野辺の送りや、遺族の家の弔問に、たれも彼も、わが家も打捨てて歩いていた。

広からぬ越後一国から、一時に三千余の戦死者を出したのである。こういう戦後の現象は春日山城下だけではない。村へ行っても、山間の部落へ行っても、香煙がにおっていた。毎日のように、寺々の鐘が鳴っていた。

上杉謙信は、日を卜して、城下の林泉寺で、大供養を執り行った。

もちろんこの日は、春日山の二十四将以下、家中悉く参列し、また身分のひくい足軽の遺家族といえ、誉れある家々の老幼はすべて法筵に列して、親しく、謙信からことばをかけられた。

夕刻、謙信は、帰城した。

晩秋の庭に対して、いつもの如く、寂として坐っていた。

燭が来る。

その燭をすえる位置まで、日常、畳の目ひとつ違っていない。

そういう風に、規律正しく、躾けられている近習であった。

彼には、妻がない。夜食も禅僧のように質素である。済むとまたすぐ居室に帰る。居室をそのまま、宴楽の席とするようなことはない。