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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

ここに戻って坐れば、いつも本来の自分に立ち還っている。黙想か、読書か、稀に、硯をよせて、何か書きものなどしている。

「……誰だ」

うしろを見た。

袖部屋のふすまが静かに開いたからである。

中へ入って、うしろ向きに、ふすまを元のように閉めている者がある。

謙信はすぐ思い出した。

――義清か。と。

夕方、近習が燭を運んで来たとき、今夜、村上義清が折入ってお目にかかりたいと申されていますが、と内意を訊ねていた。いつでも参るようにと、答えてあったのを、謙信はそのまま忘れていたのである。

「お邪げになりませぬか」

義清は、遠くに平伏して、そっと燭の方を窺った。

謙信が独り居室に静坐しているときは、たいがい禅に潜心しているのだということを常々聞いているので、こよいもと、畏る畏る、憚ったのであった。

――が、謙信のかたわらには、めずらしく、古今集か何かの和歌の書が読みさして伏せてあった。

「いや、かまわぬ。おはいりなさい」

謙信は、近習をよんで、しとねをすすめた。村上義清は、久しく上杉家の帷幕に加わっているが、臣下ではない、客である。いわゆる客将であった。

歌ごころ

「せっかく、御学問中を」