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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
村上義清の気の弱さを叱ったのもそれだし、敵の乱波に宥わりをかけたのもそういう心根が肚にすわっているからであった。
けれど彼はやはり兵家である。絶対に勝たねばならぬことを誓っている。だからたとえ敵方の乱波にそんな処置をとったにもせよ、それが味方の禍いになるような愚は断じてしない。むしろ彼のとった処置は、後々、越後の国防をかえって強化したことになっていたようだ。
そのほか、彼の一令一言、四十九歳を以て、この世の終焉を告げる日まで、事々日常の行いすべて、戦に勝つためのものだった。
勝たねば、自分がない、自分がなくては、理想の実現は遂げられない。自己を愛すこと、日常の慎み、身の養生にいたるまで、彼ほど忠実な人は武将には稀であろう。
かくはいえその自己は、尋常一様な自己ではない。私利私欲の自己とはちがう。謙信そのものは、すでに謙信一個人でなく、彼が生命をうけた国とひとつものになりきっている。――いわゆる公儀の人、公人の範をそこに持していたのである。
彼が年夭くから早くもこういう大義大私に到達していたのは、何といっても、両度の上洛がその信念をかたく誓わせたものにちがいない。