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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

山海美事

二十四歳、越後の辺境から遥かに都へ上って、天顔に咫尺し、また当年の落莫荒涼たる御所の有様や朝儀の廃れや幕府の無力や人心の頽廃など――見るもの聞くものに若い心を打たれながら――実に彼の大志は泉のごとく噴き出したものだった。そのとき上杉謙信なるものの生涯はすでに決していたのである。

山海美事

戦場こそ、年々に変って行くが、戦は川中島以後も、絶えることなく続いた。

永禄五年には、信玄が上野に乱入したので、謙信も上州沼田へ出馬した。

六年には、佐野城を救うため、関東へ出征し、また翌七年には、ふたたび川中島へ陣した。

このとき、信玄が、こんどは飛騨へ軍を向け出したからである。――八年七月にも、その信玄を牽制するため、越軍も信濃へ入った。

「甲州の足長どの(信玄のこと)には、老来いよいよお足が伸びてゆくふうだな」

と、謙信もあるとき戯れていったほど、信玄の八面六臂な行動は、連年予測をゆるさないものがあった。

そのうちに、この足長どのも、遂に、その長い足を敵に咬まれて、生涯いちどの悲鳴をあげたことがある。

永禄十一年から元亀元年にわたるあいだ、この長い年月、甲州には塩の無い生活が始まっていた。