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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

決して出先の独断ではない」

「ほ。左様なお下知を、どうしてお下しになりましたか。永禄の元年、互いに、爾後は干戈を交えまいと、神文を交わし、約定を取結んである御両家のあいだがらなるに」

「その以前、割ヶ嶽の城は、当武田家の所領であった」

「御理由にはなりません」

「使者!」

「はいっ」

「そちは、酒をのむか、のまんか」

「いただきます。御返辞を頂戴いたした後で」

「信玄の返辞はすんだ。ふくろに納めた弓も、取出せばいつでも出せる。酒をとるか、弓をとるか。そちは謙信どのから、何と申しつかって来たか」

「もとより、それがしをして、これへお遣わしあるからには……」

「そうだろう。ともあれ飲め。永禄元年の誓紙条文、そのまま両家にとめ置きたくば」

「御無態です。左様なお答えのみを持って、何で使者たるものが帰られましょう」

「いやいや、そちはなかなか、君命を恥かしめてはいない。賞めつかわしておるではないか」

「ゆめ。甲州の御大将などから、お賞めにあずかりたくはありません。今日はまず御拝顔を得たこととし、明日、また明後日、十日でも半月でも、御意を待って伺い直します。改めておねがいいたします」