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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
首捨帯刀
――けれど、その事もなく、彼は無事に、越後へ帰った。
――それ以来の今日であった。今日の偶然な接近だったのである。だから二人の微笑のうちには、言外な回顧の情と皮肉な懐かしさとがつつまれていたわけだった。
首捨帯刀
戦争とは、結局、人の力と力との高度なあらわれである。古今、いつの時代であろうと、その行動の基点から帰趨まで人の力にあることに変りはない。政略、用兵、経済、器能の働きはもちろん、自然の山川原野を駆使し、月白烈日の光線を味方とし、暗夜暁闇の利を工夫し、雲の去来、風の方角、寒暑湿乾の気温気象にいたるまでのあらゆる万象を動員してそれに機動を与え、生命を吹きこみ、そして「我が陣」となす中心のものは人間である、人間の力でしかない。
だから、戦国は、人を磨く。
また、箇々のものも、他に求められるまでもなく、各※(二の字点、1-2-22)磨かなければ、時代の戦国を生きぬいては行かれない。
どしどし踏みつぶされ、落伍してゆく。
惜しまれるものの生命すら、顧みられず、また、顧みる遑もなく、先へうごいて行く世だった。惜しまれもせぬものの生命などは、何ともしない。