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けんきょうじゅなん
剣侠受難
国枝 史郎
「東京日日新聞」1926(大正15)年5月28日~11月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,479 字 · 394 页
杉窪の里
が、不思議にも平左衛門だけが、あわても驚きもしなかった。じっと文面を凝視した。
「いや大事はござるまい。かえってこの方がよいかもしれぬ。どっちみち今回の出来事は、島原城之介、天草時行、そういう者のわざではござらぬ、……だが不幸の娘ではござる」これが平左衛門の言葉であった。
杉窪の里
日本橋から三里、新宿となる。新宿から一里、松戸となる。松戸から三里、小金の宿。小金から三里、我孫子となる。ずっと行けば、水戸へ出る。これすなわち水戸街道。今日の里程とはだいぶ違う。我孫子と小金との中間に、馬橋という駅路がある。その馬橋から我孫子へ向け、十町余りも行ったところに、目立たない一基の石標がある。「これより西、杉窪の里」これがきざまれた文字である。だが道もなんにもない。ただ一面の熊笹で、地勢は傾斜、次第上がり、飛び飛びに林、それから森だが、その森の尽きた頃から、一筋の山路が通じている。そうしてその路の消えたところに、杉窪の里が出来ている。戸数五十戸、人数三百人、奇妙な芸人の住み場所である。一名放歌の里という。放歌僧の連中が、中古時代に住んでいたからで、里人は放歌僧の後胤なのである。